車両時価額の算定について
1 修理費と車両時価額
交通事故により自己の車両が損害し,その責任が相手方にある場合には,相手方に対し,車両の修理費用を請求することができます。
ところが,車両の時価や損傷の程度によっては,修理費が車両の時価額を上回る場合があります。
これを「経済的全損」といい,最高裁の判例によれば,相手方は,修理費ではなく車両の時価額を賠償すれば足りるとされています。
このため,相手方としては,修理費と車両時価額のうち,いずれか安い方の金額を支払えば,賠償義務を果たしたことになります。
このような取り扱いがされる理由ですが,車両時価額が支払われたのであれば,被害者としては,同種の車両を中古車市場から調達し,事故前の状態に復することができることから,車両時価額を上回る,高額な修理費の支払までは必要がないとされています。
このため,損傷の程度が大きく,一見して修理不可能とわかる場合(このような場合について「一目全損」と呼ばれています。)を除き,修理費と車両時価額の両方を算定し,比較することとされています。
2 車両時価額の算定について
車両時価額は,初度登録からの年数及び車種が同一の車両につき,その一般的な販売価格(市場価格)を調べた上で,走行距離数やカーナビなどの追加の装備品の有無などを考慮して算定されます。
市場価格の調査については,従前は,レッドブックと呼ばれる書籍を参照するのが一般的でしたが,最近は,グーネットなどの中古車販売のインターネットサイトで同種車両を検索し,その販売価格の平均値を市場価格とする場合も見受けられるようになりました。
インターネットサイトの発達により,一度に複数の車両の価格をリアルタイムで把握し,比較できることが可能になったためと思われます。
車両の時価額の算定方法につき,最高裁の判例では「自動車の事故当時における取引価格は,原則として,これと同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によつて定めるべきであり,右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によつて定めることは,加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり,許されないものというべきである。」とされています。
このため,レッドブックの記載の価格のみが車両の時価額の基準とされるものではありません。
また,基準とすべきは市場価格であって,会計基準や税法上の評価を基準とすることは,原則として許されないとされていることにも留意が必要です。
3 まとめ
上記のとおり,車両時価額の算定は,事故による損害を算定するにあたり,必須の項目となっています。
ご不明な点がある場合には,交通事故に詳しい弁護士までご相談ください。